イップスになりまして【後編】
イップス体験記【前編】では、監督の「コンパクトに投げろ」という指導と、それを隠したまま投げた肩の痛み、そしてマウンド前でのワンバウンドという決定的な瞬間についてお話ししました。
あの日から、私の投球動作は完全に崩壊し、イップスという魔物に支配されることになります。
■ 脳に上書きされた「魔のフォーマット」
イップスになってしまった後は、本当に全くと言っていいほど投げ方がわからなくなったんです。
わからないし、投げるのが怖かったですね。
コーチには「前の投げ方に戻せばいいんだよ」って言われるんですが、それが、もう本当に難しいんですよね。
監督に言われた**「コンパクトに引いて投げる」という、痛みのある投げ方が、僕の脳の中で「正しい投球」として非常に強く上書き保存されてしまっていた**んです。(中略)
「前の投げ方」なんて、もうどこにも見つからなかった。 鏡を見ても、その場でいくら意識しても、体が勝手に間違った「魔のフォーマット」で動こうとするんです。
■ 克服できなかった、そして残った違和感
結局、高校時代はイップスを治すことはできませんでした。(中略)
高校を卒業して、しばらく経ってから、中学生に野球を教えているうちに、なんとなく投げられるようにはなりました。
ただ、その時の感覚はものすごく気持ち悪いですよ。
投げる動作自体はしているんですけど、自分の体じゃないみたいで、以前のような「スッと腕が出ていく感じ」が全くないんです。まるで、別の誰かに遠隔操作されているような、違和感だけが残りました。
■ 今、当時の自分に伝えたいこと
この「気持ち悪さ」は、今思えば、無意識下での体の使い方が、極度の緊張と恐怖によって崩壊したまま、完全に修復されていない状態だったのだと思います。
今、当時の自分に伝えたいことは山ほどありますが、一番は、**「休養」**です。
休養しないとダメですね。
当時の私は、イップスはフォームのメカニズムだけでなく、恐怖や睡眠不足、栄養など、色々な要因が混ざり合って症状を複雑にしてしまったのだと思います。
パフォーマンスを上げるために練習するんですけど、バグが起きている身体で練習をしても、バグが酷くなるだけです。(中略)
そして、当時の自分に今の知識があれば、こうも伝えます。
「力でごまかそうとするな。お前の体は『恐怖』で固まって、呼吸が止まっている。直すべきは、腕の振りじゃなく、お前の姿勢と呼吸の調律だ。」
イップスは、単なる気の持ちようではありません。それは、あなたの体というシステムが、極度のプレッシャーと誤った動作指令によって「バグを起こしている」状態なんです。
私自身のイップス体験を通して、私は**「心と体の調律」と「適切な休養」**の重要性を痛感しました。
もし今、イップスに悩んでいる方がいれば、「メンタルが弱い」と自分を責めないでください。まずは、体の無意識の緊張を解き、しっかりと休むことから始める必要があります。
私の知見や、そのアプローチ方法(呼吸や姿勢の調律など)に興味を持っていただけたなら、ぜひこのブログの他の記事(オスグッド編など)も読んでみてください。
最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!